研究概要 |
Notchシグナル伝達は、細胞膜リガンドの刺激によりNotchレセプターの細胞内ドメインの核移行を起点とし、細胞増殖、分化、アポトーシス、癌化に機能することが知られている。これまでに、マウス下垂体において、Notch1がACTH細胞の分化を抑制し、Notch2がゴナドトロピン(Gn)細胞の分化を遅らせることが報告されている。ヒト下垂体では非機能性腺腫でNOCTH3発現が報告されているものの、機能や増殖への関与は明らかになっていなかった。また、発生・形態形成などの生命現象に重要な役割を果たしているWntシグナルの活性化が、癌をはじめ多様な疾病の発症に深く関わっていることが明らかになりつつある。本研究では、ヒト正常下垂体および下垂体腺腫におけるその機能的役割を明らかにするためにヒト正常下垂体および下垂体腺腫においてNotch signaling(Notch receptor1, 3 and ligand Jagged 1, 2)およびWnt signaling(Wnt4 and Frzd6)の発現を免疫組織化学(IHC)およびReal time RT-PCRにより解析した。正常下垂体細胞でNotch 1,3はIHCにより、それぞれGH細胞、ACTH細胞の細胞質に局在したが、GHomaにおいては、Notch3が核に検出されactive formとして機能していることが示唆された。ACTHomaではNotch1, Notch3共に核局在を示した。Notch receptorの活性化パターンおよびリガンド発現は各腺腫タイプで異なっていた。げっ歯類では、Notchは下垂体におけるGHとACTHの機能分岐に関わっていると報告されている。一方、Wnt4 Fzd6は、下垂体腺腫において免疫組織化学、Real time RT-PCRにより、GHoma, PRLoma, TSHomaに優位に発現しており、腫瘍化に伴いPit-1 lineageにcommitした細胞の生存および機能維持に関与することが示唆された。このように、Notch、Wnt signalingは、転写因子と協調し、下垂体腫瘍細胞の分化、増殖、維持に関与していると考えられる。これらの知見を基に、下垂体における幹細胞を視野に入れ腫瘍化と機能分化のメカニズムとその動態につき詳細な検討を行っていきたい。
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