報告者はこれまで、T細胞の分化環境としての胸腺の役割を分子レベルで理解することを目的として、T細胞分化誘導におけるNotchシグナルの重要性と、シグナルを誘導するNotchリガンドについて研究してきた。その結果、胸腺環境の特殊性は、胸腺上皮細胞に発現するNotchリガンド:D114にて説明されることを報告した。 本年度は、骨髄環境と胸腺環境の差異について、Notchリガンドとの関連から理解することを目的として、骨髄分化環境を担う骨芽細胞に発現するJagged1について解析した。正常マウス骨内膜に存在する骨芽細胞上にJagged1の発現が認められた。これに対し、生後、Jaggedl遺伝子欠失を誘導したマウスでは、骨芽細胞上のJagged1の発現が消失した。このマウスに、GFP陽性骨髄由来造血幹細胞(KSL細胞)を移植し、その幹細胞画分の性状の変化を調べたが、対照群と比較し、顕著な差は認められなかった。この結果から、骨芽細胞上でのJagged1の発現は、造血幹細胞の維持に必須ではないことが明らかとなった。 また、胎仔(E13.5)膵組織の免疫組織染色から、Jagged1が膵実質未分化細胞(Pdx1陽性)および間葉系細胞(PDGFR陽性)に発現することを確認し、その生理機能について検討した。Pdx-CreER/Jagged1-floxedマウスにtamoxyfen投与することによって膵実質細胞特異的にJagged1の消失を誘導したところ、一部のマウスにて腺房組織の消失と脂肪組織への置換が観察された。さらに間葉系細胞での遺伝子欠失を誘導することで、Jagged1の膵組織発生における意義を明確にしていく。
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