研究概要 |
極性化させた単層上皮細胞層にCagAタンパク質を発現させると,タイトジャンクションならびに頂端側-基底側細胞極性が破壊され、CagA陽性細胞は極性化細胞層から離脱することを見出した。一連のCagA変異体発現実験から,このタイトジャンクションの破壊にはCagAのアミノ酸配列中1009残基〜1086残基が必要であることが明らかになった。そこでLC/MS/MS質量分析法を用いてこのCagA領域に特異的に結合する細胞タンパクを検索した結果、上皮細胞極性制御のマスターレギュレーーとして知られるPAR1b/MARK2セリン/スレオニンキナーゼを同定した。CagAはチロシンリン酸化非依存的にPAR1bキナーゼドメイン内の27アミノ酸に結合する。CagAとの複合体形成の結果、PAR1bのキナーゼ活性は抑制され、タイトジャンクションならびに細胞極性の破壊が誘導されることが明らかになった。今回明らかにしたCagA-PAR1b相互作用を介する上皮細胞の細胞間相互作用ならびに極性破壊は胃炎・消化性潰瘍といった病態を引き起こす重要なメカニズムと考えられる。 PAR1bとの結合には、CagAのEPIYA領域内に存在する16個のアミノ酸からなる配列が使われる。この配列はCagAが細胞内で二量化するために必要なCM配列と一致した。PAR1bは細胞内で二量体として存在することから、2分子のCagAがCM配列を介してPAR1bダイマーに結合する結果二量体化するものと推察される。PAR1bを介したCagAの二量体化は、その後のチロシンリン酸化依存的なCagA-SHP-2複合体形成を増強することから、CagA-PAR-1b複合体形成は上皮細胞の極性破壊のみならず、その後のCagA-PAR-1b-SHP-2複合体形成によるチロシンリン酸化依存的なCagA活性にも重要な役割を担うものと考えられる。
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