研究概要 |
一般に、ウイルスは標的細胞の特異的受容体を介して細胞内侵入するが、受容体を介さない感染(receptor-independent infection,RIIと略す)も報告されている。神経病原性の高いマウ肝炎ウイルスMHV-JHM株は、マウス脳から調整した混合神経系培養細胞では、MHV受容体(MHVR)を発現するミクログリアに最初感染し,その後は神経細胞,アストロサイト、オリゴデンドロサイトなどのMHVRを持たない細胞にRIIにより感染拡大するが、JHM由来のsrr7変異株はRII活性を欠き、ミクログリアに感染するのみで、他の細胞への感染拡大はない。我々は、srr7は親株と比べ病原性は低いがマウス脳内で増殖し、高ウイルス価の接種ではマウスを死亡させることを報告した。本年度は、RIIの病原性発現への関与について解析するため、親株とsrr7とのマウス脳内での増殖機構について検討した。親株はマウス脳内で神経細胞などのMHVRを欠く細胞へも感染拡大し、感染後2-3日でマウスは死亡した。一方,srr7も脳内での感染は徐々に広がり、感染後8-10目でマウスは死亡した。Srr7感染脳内でもMHVR陽性のミクログリアだけではなくMHVR非発現とされる神経細胞への感染が観察された。これらの結果から、親株の脳内での速やかな増殖の拡大、それに伴う高病原性発現にはRIIが関与することが強く示唆された。また、感染後期にはRII活性のないsrr7もMHVRを持たない細胞にも感染することから、変異等によりRII活性を得て他の細胞に感染する可能性と、srr7感染により産生されるサイトカインなどにより感染細胞周囲の細胞にMHVRの発現が誘導され,感受性になる可能性が考えられた。今後,これらの可能性について検討し、RII活性を欠くsrr7がどのような機構で神経病原性を示すのかを明らかにしていきたい。
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