これまでのAID活性測定システムは、いずれも制限がありAID活性制御因子の解析に必ずしも向いているとはいえなかった。今年度は、AIDの活性制御因子探索とその候補の評価のためより短期間にAID活性を評価するシステムの構築を目指した。DNAデアミナーゼファミリーのうちAIDと非常に近縁なAPOBEC3GがHIVウイルスやB型肝炎システムに変異を導入する事が報告されたので、ほぼ同じ酵素学的性質をもつAIDにも可能性があると考えた。HBVを複製しているヒト肝細胞株にAIDを発現させた所、遺伝子導入後2~3日でウイルスDNAに高頻度変異を検出した。また酵素活性のないAID変異体では高頻度変異は検出されなかった。この高頻度変異は、C to TとG to Aが主で抗体遺伝子座の高頻度変異と若干異なる。AIDが抗体遺伝子座に起こす高頻度変異は、AID活性によりC to TとG to Aが作られ、さらに遺伝子修復酵素群がAIDの活性の結果できたUを修飾する事でそれ以外の変異パターンができると考えられている。従ってHBVキャップシド内にAIDが取り込まれAIDがキャップシドDNAのマイナスとプラス鎖DNA両方にC to Uの変異を入れる事が想定される。変異パターンがC to TとG to Aなのは、抗体遺伝子座で起こるU創出後の遺伝子修復酵素群の作用が無い事が原因と考えられる。従ってAID活性がより迅速にかつより単純化された系で評価が可能になったと考えられる。AIDの活性制御は不明な点が多い中で全く新規な評価系を得た事は意義深い。
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