研究概要 |
本研究は,近年整備されてきた医療事故をめぐる報告諸制度(被害未発生のヒヤリハット報告(任意),重篤な被害に係わる重要事例報告(強制および任意))について,その実態と問題点を,米国の医療事故報告制度に関する先行実態調査を参考にして,当該報告制度の報告主体である医療安全の担当者らに対して調査票による全国意識調査を行い,現行の事故報告制度の運用上の実態の把握を行た.その際その実態と各医療機関における事故に対する取組みとの関連性,具体的には,事故報告制度と医療機関内部の事故情報取り扱いの関係性,事故報告制度と患者に対する情報提供のあり方の関係性,現場における事故報告に対する日常的な啓蒙活動と報告制度に対する態度形成の関係性,および報告制度の実効性確保のために必要とされる法制的な論点を明らかにしつつ,日米比較を行った。 本研究の実施は,(1) 医療事故報告制度の理論的検討,(2) 調査票の作成,(3) 実態調査の実施,(4) 調査結果の集計・分析および結果の公表,の4つの段階に区分される.上記の過程を経て開発した調査表に基づいて,平成19年度には約400の比較的大規模な医療機関に対する調査(第1次調査),さらに,20年度には約8000病院に対する郵送調査(第2次調査)を行った.本(平成21)年度においては,(4)の調査結果の整理分析を行い,下に記した上智法学論集に第1次調査の概要を公表した.そこでは,システムエラーの考え方への理解が日米ともに広がりを見せていることが改めて明らかになるとともに,情報開示,個人責任の追求,謝罪などの側面において日米の差異も確認できた.本研究の研究期間は終了するが,今後も引き続き,調査結果の分析を行い,さらなる調査結果の公表などをつづけていき,報告制度と医療安全の向上に関する理論的側面からの検討や政策提言なども行っていきたい.
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