研究概要 |
ATL細胞(HTLV-1の感染細胞を含む)と非ATL細胞における遺伝子発現をDNAマイクロアレイで比較し,ATL細胞特異的に発現しているいくつかの細胞表面分子について検討した。その結果,HTLV-1非感染T細胞株のMOLT-4を基準に,性質が異なる3種類のHTLV-1感染T細胞株の遺伝子発現を比較したところ,3種類のHTLV-1感染T細胞株(SIT,MT-2,M8166)全てにおいて,MOLT-4と比べてmRNAの発現が10倍以上増加していた遺伝子が108個同定された。さらに,3種類全てにおいて100倍以上増加していた遺伝子が8個あった。また,細胞表面に発現している分子に対応する遺伝子について検討すると,3種類全てにおいて,MOLT-4細胞より10倍発現が増強しているものが11個存在した。その中でも,CD70遺伝子は3種類のHTLV-1感染細胞において,MOLT-4細胞よりも1,000倍以上の発現の増加が認められた。さらに,この分子がタンパク質レベルにおいてもHTLV-1感染T細胞株の表面に特異的に高発現していることを明らかにした。また,6例ずつのATL患者由来の末梢血単核細胞(PBMC)と健康成人由来のPBMCについて,CD70発現を比較したところ,前者のCD4細胞には平均で約80%の細胞にCD70が発現しているのに対し,後者のそれでは平均で約3%と大きな違いが認められた。CD70分子は糖蛋白ではないが,ATLの発症早期診断あるいは抗体療法の標的となるかどうか検討中である。 一方,これとは別に,ATL細胞にてマウスを免疫し,樹立されたハイブリドーマ由来のモノクロナール抗体の幾つかに,特異性を有する糖鎖結合活性を検出することができた。また,ファージディスプレイ法を用いて,SIT細胞特異的な抗体を得ることに成功し,それが認識するSIT細胞表面の分子を同定するとともに,SIT細胞に対しアポトーシスを誘導することを明らかにした。
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