研究概要 |
本研究の目的は,嗅神経にナノ粒子が侵入し,中枢神経に到達するという経路の解明であった。平成19年度には,コロイダルゴールドを用いた点鼻投与により,金ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察した。実験には,4週齢・雄のbulb/cマウスを用いた。点鼻したコロイダルゴールドは,分散剤を含まない純水に5nmの金粒子を懸濁したものを用いた。投与から24時間経過後には,嗅神経の一次ニューロン終末部を,金ナノ粒子が超えて,高次ニューロンに侵入している像を認めた。この成果は,粒子がシナプスを超え,より高次の中枢神経に移動し得ることを提示している。 平成20年度には,国立環境研究所の協力により,40nmのディーゼル排気粒子(DEP)をマウスに4週間曝露した。その結果,DEPに含まれる金属元素種により,嗅上皮や嗅球における元素量の分布が異なっていることが確認できた。DEPに付着もしくは含まれている金属元素は,元素種によっては一部が溶出したり,粒子にそのまま付着したりして神経細胞内に存在している可能性を提示している。また,対照群および曝露群の嗅球におけるZnのXAFS分析を行った。対照群の嗅球と曝露群の嗅球のスペクトルを比較すると,スペクトルの立ち上がりであるX線吸収端のエネルギーが異なった。DEP懸濁液と曝露群の嗅球のスペクトルを比較すると,X線吸収端のエネルギーがほぼ等しくなったことから,曝露群の糸球体層に現れたスポットは嗅球に生体内に元来存在するZn由来のスポットではなく,DEPに含まれるZn由来のスポットの可能性が高かった。 これらの結果から,ナノ粒子が嗅神経内に侵入し嗅球へ移動する,これまでに報告の無い現象を確認することに成功した。一方で,ナノ粒子の侵入・移動に要する時間や,粒子の物理化学的要因の違いによる侵入・移動量の考察には到っておらず,重要な課題である。
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