研究概要 |
本研究では、原爆被爆者コホートにおいて放射線誘発ゲノム損傷およびそれに関わると考えられる炎症マーカーの評価、ならびに放射線によるゲノム損傷の感受性の個人差に関係すると考えられるDNA修復遺伝子多型の解析を行い、がんなど放射線関連疾患発生の分子生物学的メカニズムの理解を深めることを目的とする。 マウス炎症モデルでTNF-αレベルの上昇に伴う小核網状赤血球の頻度増加の知見(Mutat Res, in press)に基づき、原爆被爆者の造血系の遺伝的不安定性に放射線で誘発される持続性炎症が関係するか検討するため、被爆者末梢血中のTNF-αレベルと網状赤血球小核頻度との関係を調べたが、両者に有意な相関は認められなかった。しかしながら、TNF-αレベルは同じ被爆者の末梢血中ナイーブCD4T細胞の割合と逆相関を示し、放射線によるT細胞免疫の長期低下が持続性炎症に関係していることが示唆された(Radiat Res, in press)。 放射線によるゲノム損傷の個人差の背景にある遺伝子多型を調べるため、GPA突然変異頻度とATM、NBS1、P53ならびにP53BP1遺伝子の多型を解析した結果、P53BP1の遺伝子型の違いが放射線誘発GPA突然変異頻度の個人差に関係する可能性が示唆された(未発表データ)。この知見は、放射線被曝後のGPA遺伝子の変異性には個人差があり、高い変異性を有する者には発がんリスクが高いことを示した調査報告(Cancer Res, 2005)、ならびに放射線感受性の個人差にDNA修復遺伝子多型が関係していると考える我々の仮説を支持する。
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