研究概要 |
電子レセプトより感染症やがんの疾病サーベイランスを構築する技術基盤として,初年度は日本医療データセンター(JMDC)社の保有するレセプトデータの使用許諾を結び,性感染症,インフルエンザそしてがんといった疾病の時間的空間的流行状況をレセプトデータから把握する様々な方法を試みた。岡本・橘(ならびに研究協力者である瀬戸口)は,インフルエンザ患者にタミフル投与直後異常行動の副作用に関心が高まっていることから,インフルエンザ患者のレセプトを外傷疾患のレセプトと個人単位で突合し,インフルエンザ診療開始後3日以内の外傷発生頻度を分析した。その結果,7組合約32万人の被保険者の4シーズンのインフルエンザ受診者12万3000人中98人に3日以内の外傷発生が観察されたが,タミフル投与群の発生率はその他患者よりむしろ低く,タミフルによる外傷発生の増加は観察されないことを明らかにした。田中(ならびに研究協力者である中谷,廣井)は,肝がん等の悪性疾患について,レセプトには多数の傷病名が記載されるのみならず保険病名等の疑い病名もあり,多数の情報が無秩序に記載されているように見えるが,複数傷病名の組み合わせや適応症との特異性の高い治療薬の組み合わせ(ノソロジカルオントロジー)によりその中に一定の「構造」を検出することが可能であることを示し,次年度のオントロジー構築の方向を示した。谷原は,感染症法に基づく感染症サーベイランスの定点医療機関リストを東京,島根について入手し,それとJMDCデータとを医療機関単位でリンクして,性感染症罹患者434人中35人が定点医療機関を受診していた事実を把握し,定点観測とレセプトとを組み合わせることで全国の真の患者数の推計が可能であることを示した。次年度はより多数の医療機関リストを入手し,岡本・橘とも共同して感染症全てについてのレセプトサーベイランスとGISマッピングを試みる。
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