1.穿通性頭部外傷では、脳内に異物が残留することがある。頭部銃創は最も多い穿通性頭部外傷であり、弾丸には鉛が含まれている。これまでに鉛球を脳内に一定期間留置したモデル動物ではアポトーシス細胞の出現とNMDA遺伝子発現量の低下が生じることを明らかにした。本年度は鉛球の脳内留置による脳内細胞の経時的な免疫染色の強度を画像解析により検討した。 2.6週齢Wistar系雄ラットのブレグマ後方4mm、右2mm、深さ2mmの位置に直径1mmの鉛球1個を留置したモデル動物を作製した。その後0.5日、7日~28日後に脳を摘出した。摘出した脳のパラフィン切片を作成し、各種抗体を用いた免疫染色(GFAP、NeuN、CD68、NFP、金属輸送蛋白メタロチオネイン)を行った。対照には硝子球を留置したラットを用いた。画像解析は、光学顕微鏡より取り込んだ画像からImage J(ver. 1.42)を用いて各種免疫染色の染色強度を算出した。鉛球群と硝子球群の染色強度の差を統計解析した。 3.GFAPとNFPの発現増加は、鉛球群と硝子球群に染色強度の差は認められなく、球の物理的圧迫によって生じていると判断された。一方、CD68陽性マクロファージとメタロチオネインは異物留置14日目以降に鉛球留置群で染色強度が優位に増加した。NeuN陽性神経細胞は留置期間28日目に鉛球留置群で染色強度が優位に減少した。以上の結果から、鉛によるマクロファージの増加が神経細胞死に関与していると考えられた。また、メタロチオネインには抗アポトーシス作用と抗酸化作用があり、その増加は脳障害を抑制していると考えられた。本研究により脳内に残留した鉛球によって脳組織に障害が生じることが明らかになった。
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