研究概要 |
慢性肝炎から肝がんに至るがん化のイニシエーション過程に作用するマイクロRNA(miRNA)分子を同定することを目的とした。これまで確立したB型肝炎ウイルス(HBV)トランスジェニックマウスを用いた炎症性発がんモデルにおいて、前がん状態を誘導する(イニシエーション)過程における遺伝子発現および酸化ストレスの原因分子としてoncomiRの関与を明らかにするために以下の実験計画を実施した。 (1) 発現遺伝解析、miRNA分子の検出: 炎症性発がんモデル(Nakamoto et al.:J.Exp.Med.188:341,1998)のがん化初期段階に相当する時期(肝炎6~9ヵ月目)の発現プロファイルを明らかにした。この時期に特異的に変動する157個の遺伝子(シグナル伝達26個、細胞増殖23個、代謝23個、転写・分化15個、その他)を明らかにした。これらは肝炎の急性期や肝がん組織にみられる遺伝子群とはほとんど重複を認めない特徴的なものであった。さらに、同時期に発現が変化する8個のmiRNAを同定した。 (2) miRNA分子の機能解析: 8個のmiRNA分子のうちで6つは既報の患者肝組織での検討結果と一致しており発がん病態への関与が強く示唆された。また、2つのmiRNAについて肝がん細胞株での細胞増殖作用とコロニー形成能をともに亢進させることを見出した。 これより、肝臓における前がん状態で悪性転化を制御するmiRNA分子(oncomiR)が同定された。
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