研究概要 |
動脈硬化進展と破綻に関する新規制御機構を明らかにすることを目的とした。特に、従来あまり注目されていなかった、外膜血管新生ならびに動脈周囲の脂肪組織の意義を基礎的ならびに臨床的に検討した。 血管外膜周囲に豊富に存在する脂肪組織の形質を、皮下脂肪、内臓脂肪と比較した。血管外脂肪組織は通常は皮下脂肪に近いものの、血管傷害を契機に内臓脂肪型に形質を転換することが明らかとなった。特に、アディポネクチンの低下、IL-6,TNFα、PAI-1の増加が目立った。TNFαノックアウトマウスでは炎症性サイトカインの誘導が減弱していた。TNFαの外部からの投与によって炎症性サイトカイン発現が誘導された。以上より、血管傷害により血管壁で誘導されたTNFαが外膜周囲脂肪組織の遺伝子発現変化に重要であると考えられた。次に、血管外膜周囲脂肪組織から遊離されるアディポサイトカインの血管リモデリングにおける生理的意義を遺伝子改変マウスを用いて検討した。内因性の脂肪組織を除去した後、アディポネクチンノックアウトマウスからの皮下脂肪を移植しても、血管外周囲脂肪組織による防御的機能は観察されなかった。野生型マウスからの皮下脂肪では抑制効果が確認できた。 さらには、心臓外科手術時に得られる心外膜脂肪組織を解析した。冠動脈疾患患者の心臓周囲脂肪組織では、マクロファージの浸潤が多く、脂肪細胞の大型化、アディポネクチンの発現低下、炎症性サイトカインの発現増加が確認された。 以上より、血管外周囲脂肪組織は、病的血管リモデリングに対して、通常防御的に機能すると考えられた。血管障害や生活習慣病によって、血管周囲脂肪組織の形質が変化し、内膜増殖や動脈硬化の病態に重要な役割を演ずることが示唆された。
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