本研究の目標は、心筋症の分子病因と病態形成機構の理解に立脚した心筋症・心不全病態の治療戦略を開発することにある。本年度の主な研究成果は以下のとおりである。1.酵母2ハイブリッド法を用いてZASP/Cypherの心節特異的ドメインに結合するタンパクを同定した。GFP融合遺伝子をラット心筋細胞に導入しで当該タンパクの細胞内分布を検討したところ、当該タンパクは通常は細胞質に存在するが、低血清培養条件下ではZ帯に移行した。また、種々のリコンビナントを用いた実験の結果、Z帯移行シグナルはC末端ドメインに存在し、N末側は通常培養条件下ではZ帯への移行を抑制していることが判明した。また、拡張型心筋症患者に見出されたZASP/Cypher変異は当該タンパクへの結合性を著明に減少させた。2.候補遺伝子アプローチによって、タイチンN2B領域結合タンパクであるFHL2、細胞外マトリックス結合タンパクであるラミニンα4、インテグリンキナーゼの変異が拡張型心筋症の原因となること、タイチンZ9-Z10領域結合タンパクであるオブスキュリンの変異が肥大型心筋症の原因となることを明らかにした。3.PP1MのスモールサブユニットであるM21を高発現するトランスジェニックマウスが肥大型心筋症の病態を呈するが、低発現マウスは明らかな心肥大を呈さなかった。そこで、高発現マウス、低発現マウスおよび対照マウスの心筋を用いた網羅的発現解析を実施し、高発現マウスでのみ発現が変化する遺伝子群として39遺伝子を同定した。4.pull-down法を用いてM21とPP1Mラージサブユニットとの結合を検討したところ、M21はMYPT2よりMYPT1に強く結合すること、結合ドメインはMYPTのC末側1/3にあること、M21のロイシンジッパードメインはMYPTとの結合に必須でないことなどを明らかにした。
|