(研究目的)肺線維症は、背景要因の推測される病態と、原因不明な病態が存在する。いずれも肺線維症は50歳以上に多い。本研究は、肺線維化への肺小葉隔壁変化が、末梢気腔でサーファクタントを産生するII型肺胞上皮細胞の加齢による変性によるとの仮説のもとに、家族性肺線維症(FIP)全ゲノム検索で示された第10染色体短腕10p13-14領域に存在し、受容体の再利用・分解や細胞内蛋白移送に関与するSTAM1に着目し、その発現等を解析した。 (1)臨床検体の末梢血リンパ球STAM1遺伝子発現の検討: 喫煙者特発性間質性肺炎患者で家族性肺線維症患者が見られるIPF患者(n=17)、健常対照(n=43)よりgenomic DNA、mRNAを抽出し、STAM1などの遺伝子発現を検討: ・Real time PCRにおいてSTAM1/HPRT1(内部標準):患者(n=14)1.43+2.3に対し、正常検体(n=34)7.23+11.0と低値であった。 ・さらにSTAM1のcDNA蛋白コード領域(1622bp)には変化を認めず。 ・STAM1遺伝子転写開始直下のCpG領域でもIPF患者にはメチル化を認めず。 (2)気道上皮由来細胞における全ゲノムメチル化異常、miRNA発現解析: 平成20、21年は手術検体や剖検検体の気道上皮細胞より、上質のDNA採取を検討した。しかし、臨床検体から解析可能な十分量の採取はできなかった。細気管支上皮細胞由来、肺腺癌細胞株A549、PC9を用いて、全ゲノムメチル化解析と、microRNA発現解析等を試行した。 (3)ヒト線維芽細胞のTGF-β1、治療薬CyclosporinA(CsA)の効果: 線維化肺における増殖因子TGF-β1の線維芽細胞に対する作用をin vitroで検討するため、MRC3(human fetal fibroblast)にTGF-β1を添加したところ、αSMAやα1-collagen IIIの発現が亢進し、筋線維芽細胞への形質転換を認め、CsAはこれを抑制する結果を得た。線維芽細胞系ではSTAM1の変化はなかった。 (結語)これらの結果は、最初想定したSTAM1発現変化が、肺線維症では大きな意義がないと考えられる。最近、GWAS解析では、hTERT遺伝子の関与が示唆され、一方、telomerase shortening syndromeの一部に家族性肺線維症が見られるとする報告がなされた。
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