研究概要 |
膵β細胞の再生,移植療法は糖尿病に対する新しい治療法として注目されているが,その確立の為には,まず膵細胞の分化メカニズムを明らかにする必要がある。本研究課題においては転写因子Fox01が膵細胞の分化に重要な役割を果たす可能性を以下の3つの系で検証した。(1)膵特異的Fox01欠損マウスの解析これらのマウスでは定量RT-PCRの結果,膵臓でのFox01の発現が90%以上低下していた。組織学的解析の結果,膵管におけるインスリン陽性細胞の数が著増しており,小さなラ氏島の数も増加していた。(2)膵特異的Fox01トランスジェニックマウスの解析これらのマウスは膵臓の形態に著しい異常を認めた。まず,膵外分泌細胞は殆ど消失し,膵管構造が著明に増加,ラ氏島細胞の構築に異常をきたし,ラ氏島内微小血管の増加を認めた。(1)と(2)の成果よりFox01が膵細胞の分化に重要な役割を果たすことが証明された為,平成20年度はさらにこれらのマウスの表現型(各種代謝パラメーターや血清学的解析,糖負荷テスト等)の解析を進める予定である。(3)培養膵管細胞からインスリン産生細胞を作成する試み膵管細胞に活性型Fox01を過剰発現させると,グルカゴンとPPの発現が誘導されたが,インスリンは発現しなかった。逆にsiRNAを用いてFox01をノックダウンしたが,インスリンもグルカゴンも発現しなかった。ただし,膵分化関連転写因子であるPdx1,NeuroD,Nkx2.2などの発現は変化した為,平成20年度には他の転写因子との併用やFox01発現のタイミングを変えてみて,膵管細胞からインスリン産生細胞の誘導を試みる予定である。以上,平成19年度の研究実績は研究代表者の仮説通り膵細胞分化におけるFox01の重要性を証明するものであり,大変意義深い。よって今後もこの研究課題をさらに推進することは非常に重要であると思われる。
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