本研究課題においては、転写因子Fox01が膵細胞の分化や膵細胞型の決定に果たす役割をvivoで明らかにする為に、膵特異的Fox01欠損マウス(KO)と膵特異的Fox01トランスジェニックマウス(TG)を作成した(平成19年度成果)。平成20年度には、これらのマウスに高脂肪、高ショ糖食を与え、耐糖能の変化を調べた。耐糖能はKOで優位に改善、逆にTGでは悪化し、一部のマウスは顕性の糖尿病を発症した。重要なことに、KOではインスリン陽性の膵管細胞と小さなサイズのラ氏島の増加が認められ、β細胞の新生が促進されていると考えられた。一方、TGでは明らかなβ細胞の減少とともに、腺房細胞の著減、膵管の増加とラ氏島内血管の増加が認められた。また、KOをdb/dbマウスと交配させると、耐糖能はコントロールのdb/dbマウスに比し、明らかな増悪傾向を示した。これらの結果から、Fox01が膵綱胞の分化、新生のみならず、その機能にも重要であることが明らかとなり、糖尿病発症との関わりが示唆された。次に、Fox01の膵細胞分化における役割を直接検討する為に、マウスから単離培養した膵管細胞において、アデノウイルス発現系を用いてFox01の恒常的活性型変異体を発現させ、膵管細胞が膵内分泌細胞に分化移行し得るかを検討したが、グルカゴンやPPの発現は誘導されたが、インスリンの発現には至らなかった。今回得られた知見は、糖尿病におけるβ細胞障害の分子メカニズムの解明のみならず、将来のβ細胞の再生と、それを利用した糖尿病に対する細胞移植療法の開発に重要な示唆を与えるものであり、今後のさらなる研究成果が期待される。
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