PI3K の活性化はβ細胞の機能・増殖に重要であると考えられるが、これを証明するため膵β細胞特異的にpik3rl遺伝子をノックアウトしたマウスβpik3rlKOを、またpik3r2 nullマウスとβpik3rlKOを交配させて、β細胞特異的な調節サブユニットの完全ノックアウト(βp85DKO)マウスを作成した。βpik3rlKOマウス、βp85DKO マウスでは、グルコース依存性のインスリン分泌障害のため、高度の耐糖能障害を呈しており、βp85DKO マウスでその障害はより顕著であった。このインスリン分泌の障害として、(1)PI3Kの下流である Akt の活性化の低下により apoptosis が亢進しており、β細胞量の減少がβp85DKO マウスでは有意に認められた、(2)gap junction 形成因子 Connexin 36の発現が有意に低下しており、通常はグルコース刺激に対して認められるラ氏島全β細胞の同調的インスリン分泌が障害されていた、(3)インスリン分泌顆粒の exocytosis に重要な SNARE 蛋白複合体を形成する分子の発現が cluster として低下していることがcDNAマイクロアレイで確認された。多くの2型糖尿病患者では、グルコース応答性のインスリン分泌ことに第一相の低下を呈し、周期的同調的インスリン分泌 oscillation の低下や、経時的なβ細胞量の低下を伴う。従って、本研究の成果から、インスリンシグナルの下流において PI3K が膵β細胞の機能や増殖に重要な役割を果たしており、2型糖尿病ではβ細胞のインスリン抵抗性(インスリンシグナルの低下)が、β細胞の量や機能の低下をもたらして病態を修飾していることが示唆された。
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