心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患は国民の死因の3分の一を占め、その予防は重要な健康対策課題である。現在問題になっているのは運動不足や過栄養により内臓脂肪が蓄積し、耐糖能異常、脂質異常、血圧上昇を集積する病態で、これをメタボリックシンドロームと呼び心血管疾患の予防医学を行うことがわが国でも明確にされた。申請者はメタボリックシンドロームの責任臓器としての脂肪組織に焦点を絞った研究を一貫して行ってきた。本研究は病態としての『低adiponectin血症』を確立し、これを改善するための内臓脂肪減少の意義を明らかにするとともに、創薬ターゲットとしての検討を進めるものである。 本年度研究では、1)adiponectin欠損が動脈硬化だけでなく、心筋線維化、心不全に繋がることを明らかにした。シグナル伝達機構についても新たな知見が得られた。2)低酸素負荷について検討し、3T3-Ll脂肪細胞を低酸素に曝露したときにadiponectin遺伝子発現が低下するが、遺伝子発現低下にいたらない濃度でも分泌低下がおこることを明らかにした。臨床的に睡眠時無呼吸症候群との関連を検討し、低adiponectin血症がおこる新たなメカニズムに関する知見が得られた。3)冠動脈疾患症例において多量体adiponectinを測定し、多量体adiponectin濃度は総adiponectin濃度とよく相関し、一方低分子adiponectin濃度は総adiponectin濃度に関わらずほぼ一定であること、多量体adiponectin濃度は総adiponectin濃度と同様、冠動脈疾患症例のメタボリックリスクと関連することが明らかにし報告した。4)PPAR-alphaリガンドがin vivoおよびin vitroでadiponectinのプロモーター活性・発現・分泌を上昇させることを明らかにし報告した。
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