同種造血幹細胞移植において最も大きな合併症は移植片対宿主病(GVHD)である。急性GVHDの本質はアロ抗原特異的な免疫反応であるが、その病態は様々な炎症反応により修飾されており、必ずしも詳細は明らかになっていない。その診断においては客観的な特異マーカーがなく、移植後早期の合併症との鑑別診断も必ずしも容易でない。また予防や治療においても副腎皮質ホルモン剤などの非特異的な免疫抑制剤が主体であり、GVHDに対する特異的な治療法の開発が望まれている。そこで、本研究では申請者らが同定したDNM-1(CD226)を分子標的としたGVHDに対する新しい診断と免疫療法の基盤開発を行なうことを目的とした。 本年度は放射線照射したマウスに脾細胞移植を行ないGVHDを誘導したモデルマウスを作製し、DNAM-1が急性GVHDの発症や病態に関与するか否かを検討した。申請者らが樹立したDNAM-1遺伝子欠損マウスまたは野生型マウスをドナー細胞としてGVHDモデルを作製すると、DNAM-1遺伝子欠損マウスでは野生型に比較し、有意にGVHDの重症度が低く、生存期間が延長した。さらに野生型マウスをドナー細胞としたGVHDモデルマウスにあらかじめDNAM-1に対する中和抗体(TX42)を投与することによって、急性GVHDの発症が抑制されることを明らかにした。これらの結果から、DNAM-1を用いた分子標的療法の可能性が示唆された。
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