がん特異的TCR遺伝子導入T細胞によるadoptive cellular immunotherapyを実施するのには、頻回に遺伝子導入T細抱を調整することが必要となり、多大の労力を有する。本研究ではこの問題を克服する目的で、自己造血幹細胞にTCRを遺伝子導入し、体内に戻すことを計画した。このことによって、体内で持続的に腫瘍特異的CTLを誘導し、がん細胞を選択的に拒絶しようとする全く新しい概念に基づく治療法の開発を確立することが最終目標である。本研究計画を遂行し、本年度は下記の研究成果が得られた。 1)がん特異的(WT1特異的)HLA-A^*2402拘束性ヒトT細胞クローンを樹立し、TCR-αおよびTCR-β遺伝子を単離した。さらに、これらのTCR遺伝子をレンチウイルスベクターに組み込み、WT1特異的TCR発現ベクターを構築した。 2)WT1特異的TCR遺伝子を、末稍血CD4およびCD8陽性リンパ球に遺伝子導入したところ、ともにHLA-A^*2402拘束性WT1ペプチド特異性が獲得された。 3)WT1特異的TCR遺伝子導入CD4陽性T細胞は白血病細胞に対し、HLA-A^*2402拘束性にTh1サイトカインを産生した。また、CD8陽性T細胞は白血病細胞に対し、HLA-A^*2402拘束性に細胞傷害活性を示した。 4)臍帯血CD34陽性造血幹細胞に、TCR遺伝子を導入したところ、約10%の細胞に導入できた。 現在、TCR遺伝子導入CD34陽性造血幹細胞を新たな免疫不全マウスであるNOD/SCID/IL2receptor γ chain^<null>マウスに移植し、ヒト免疫系を再構築することによって、マウス体内で、WT1特異的ヒトT細胞の分化・増殖を図っている。さらに、このマウスにおけるヒト白血病の拒絶効果を評価する予定である。
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