研究概要 |
間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cell)の腫瘍集積性というユニークな性質を応用した悪性リンパ腫に対する新規治療法の開発研究を行った. 1)ヒト初代培養MSCへの遺伝子導入:ヒト骨髄由来付着細胞をMSCとして用いた.遺伝子導入実験では,nucleofection法を試みたが,遺伝子発現レベルが低かったため,ファイバー改変型(ポリリジンに改変)アデノウイルスベクターについて検討した.この方法で,ヒトMSCへの遺伝子導入効率はほぼ100%を達成することができた. 2)リンパ腫細胞株を皮下移植した担癌ヌードマウスへのMSC投与実験:GFP発現MSCをリンパ腫モデルマウスの血管内に投与したところ,腫瘍組織切片中にMSCの存在を認め,腫瘍への集積が確認できた.MSCの対照として線維芽細胞(WI-38)を投与したが,腫瘍集積性は認められなかった. 3)ヒトリンパ腫細胞に対する可溶型TRAILの増殖抑制効果に関する検討:リンパ腫細胞(U937,Daudi,Raji,SCC-3,SLVL)の培養系に可溶型TRAILを添加して,増殖抑制効果をXTTassay法で確認した。U937,RajiおよびSLVLでは用量依存的な増殖抑制効果を認めた.この増殖抑制効果は,ピストン脱アセチル化阻害剤(HDAC inhibitor)の併用で増強された.さらに,可溶型TRAIL発現MSCを作製し,リンパ腫モデルマウスの血管内に投与する遺伝子治療実験の準備を進めた. その他,MSCの腫瘍集積性の分子機構については,MSCと線維芽細胞で腫瘍集積性に違いが認められたため,両者の間で増殖因子やケモカインに対する遊走能を比較検討した。
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