間葉系幹細胞(MSC:mesenchymal stem cell)の腫瘍集積性というユニークな性質を応用した悪性リンパ腫に対する新規治療法の開発研究を行った。 1.可溶型TRAIL発現アデノウイルスベクターの構築:ヒトTRAILの細胞外ドメインのN末端側に、ヒトフィブリリン由来分泌シグナル配列、イソロイシンジッパー配列を付与した発現カセットを作製した。イソロイシンジッパーは生理条件下におけるTRAILの三量体形成を促進し、抗腫瘍活性を高めることが報告されている。このカセットをファイバー改変型(ポリリジンに改変)アデノウイルスベクターにin vitorライゲーション法で挿入した。 2.MSCの腫瘍集積性の分子機構に関する検討:増殖因子やケモカインに対するMSCと線維芽細胞の遊走能を、トランスウェルを用いてin vitorで比較検討したが、両者の遊走性に違いは認められなかった。担癌モデルマウス(ヒト大腸癌細胞SW480を皮下に接種したヌードマウス)に投与したMSCは、腫瘍組織中で特に腫瘍血管が多く存在する間質領域に集積する傾向を認めた。そこで、血管内皮細胞への接着性を検証したところ、TNF-αで刺激したMSCでは線維芽細胞と比較して内皮細胞への接着性が有意に亢進しており、この接着性はVCAM-1やVLA-4に対する抗体で部分的に阻害された。さらに、天然由来の小分子化合物であるパルテノライドを投与して、腫瘍局所におけるTNF-α産生を低下させた担癌マウスを作製した。このマウスにルシフェラーゼ発現MSCを左心室腔内から投与して腫瘍集積性を生体イメージング装置IVISで経時的に観察すると、パルテノライド投与群では、非投与群と比較してMSCの腫瘍集積性が抑制された。
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