研究概要 |
X連鎖重症複合免疫不全症(XSCID)やX連鎖慢性肉芽腫症(XCGD)の遺伝子治療は極めて効果的に行われ、明らかな臨床効果が証明された。しかし、XSCIDは白血病を合併し、XCGDは白血病関連遺伝子が正常好中球の増殖優位性と機能回復に関与していることが明らかになった。挿入変異が機能的にポジティブに働くにせよ、ネガティブに働くにせよ、それによる白血病発症を事前に予知する事は、安全な遺伝子治療を実現していく上で極めて重要である。最近中畑等が作成したNOGマウスを用いることにより、遺伝子治療の際に惹起される挿入変異が白血病に結びつくか否かを予知する系を開発し、レトロウイルスおよびレンチウイルスベクターの使用に向けた安全な遺伝子治療の実現に資すると共に、白血病発症機構の解析から、白血病発症の回避策を見出したい。 平成19年度は、臍帯血由来CD34陽性造血幹細胞へのレトロウィルスによる遺伝子導入法について検討した。実験に用いるMSCVレトロウィルスベクターとして、pDΛNsamIRESGFPをバックボーンベクターにMLL/AF10、LMO2、LMO2-γc鎖を各々組み込んだコンストラクトを作成した。ウィルスのパッケージング細胞としてはPG13を用いた。造血幹細胞への感染にあたっては、MSCVベクターを遺伝子導入したPG13の培養上清を用いて、IL-6,SCF,TPO,Flt-3Lにて前刺激をした造血幹細胞にレトロネクチンプレート上にて感染を行った。この感染方法によりMSCVベクターにおける感染効率はほぼ90%以上の感染が得られるようになった。感染によりGFP遺伝子が導入されたCD34陽性細胞をNOGマウスに移植することで、3〜4ケ月後にはNOGマウスの末梢血にヒトCD45陽性細胞が検出され、遺伝子導入造血幹細胞がマウス内にて分化、生着可能であることを確認した。現在は、MLL/AF10,LMO2などがインサートされたMSCVベクターを用いて造血幹細胞への感染を行っており、NOGマウスに移植予定である。
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