X-SCID遺伝子治療における有害事象として発生した、LMO2遺伝子への挿入変異によるT細胞白血病を、ヒト化NOGマウス内にて再現することを当面の研究目標とした。研究材料、方法としては臍帯血由来のCD34^+細胞にレトロウィルスを用いてLMO2を強制発現させ、NOGマウスに移植する系を用いた。白血病発症のコントロールとして、強力な発がん性を持つ融合遺伝子であるMLL/AFIOを用い、同様にレトロウィルスにてCD34^+細胞に導入し、NOGマウスに移植した。導入遺伝子をもつ血球の解析にはGFPを指標に、FACSにて表面抗原解析を行った。結果としては、LMO2を導入したCD34^+細胞を移植した群(LMO2群 ; 7匹)では、レトロウィルスベクターのみ導入し移植したマウスに比べて、遺伝子導入細胞の生着が不良であった。しかし、移植後4か月ではLMO2群の半数において、出現したヒト血球におけるT細胞の割合が著増していた。これらの結果から、CD34^+細胞のLMO2高発現によるT細胞系への分化偏向作用が示唆された。現在これらマウスが白血病に至る経過を観察している。またMLL/AF10遺伝子導入群では、導入効率が移植時には2%ほどであったにも関わらず、移植後3カ月の時点でヒト血球の半数にMLL/AF10導入遺伝子を持つマウスが存在した(3匹中1匹において)。これはMLL/AF10導入細胞の強力な細胞増殖を反映すると思われ、今後の白血病発症を予期させる結果であった。現時点において、LMO2群におけるT細胞性白血病の発症はみられていないが、ヒト化NOGマウス以外の実験動物において、LM02高発現ヒト造血幹細胞の分化が見られる実験系はなく、さらに個体数を増やし白血病発症の有無について実験を続ける予定である。
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