前年に引き続き、レトロウィルスベクターを使用して転写因子LMO2を遺伝子導入されたヒト臍帯血由来CD34^+細胞を移植されたNOGマウスに出現したヒトリンパ球の解析を行った。また、この実験系において、癌遺伝子を導入されたCD34^+細胞がNOGマウス内にて白血病を発症するか否かを検証するための陽性コントロール遺伝子としてMLL/AF10を使用した。結果としては、MLL/AF10導入群では移植後3ヵ月の時点で、顕著にヒトB細胞が増殖するマウスがいるも(3匹中1匹において)、5か月経過してもマウスの一般状態の悪化や牌腫を認めず、B細胞の増殖を認めなかったため、陽性コントロール群において白血病化を確認できなかった。また、LMO2導入群においては、移植後3ヵ月の時点でT細胞への分化偏向を来す傾向があったことから、T細胞性白血病発症が期待された。しかし、移植後7ヵ月経過してもT細胞性白血病の発症は認めなかった。以下の結果から、この実験系においては、導入された遺伝子の持つ増殖シグナルや分化調節能を発現しそれを確認することはできるも、約半年という観察期間において白血病化するまでを確認することは困難であると考えられた。その改善策として、白血病発症を短縮できるように更なる癌遺伝子をセカンドヒットとして同時に導入することを試みた。同時に導入する遺伝子としては、やはり白血病発症にかかわる癌遺伝子である恒常的活性化変異を持つk-rasを候補とした。k-ras導入群では、移植後3ヵ月において、マウスの一般状態が悪化し、ヒト骨髄系細胞の増加と脾腫が認められた。脾臓の病理組織標本では、異形成を有する細胞が著増していた。以上より、k-rasをセカンドヒット遺伝子として同時に遺伝子導入し、白血病発症を早める試みを施行中である。
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