本研究計画の主な目的は恐怖学習過程において扁桃体グルタミン酸作動性シナプス伝達の長期増強(LTP)誘発でのNMDA受容体NR2Bサブユニットの役割を明らかにすることである。扁桃体スライス標本において恣意的にポストシナプスに全く膜電位を変化させず、頻回刺激を与えると長期増強(LTP)が誘発された。このメカニズムについて薬理学実験を追加したところ、プレシナプスに局在するカイニン酸受容体によるカルシウムの上昇によるLTPで有ることが判明した。更に興味深い事にポストシナプス電位を+70mVまで上げて同じ頻回刺激に与えると、ポストシナプスに局在するNMDA受容体活性によるLTPのみが確認され、上記のプレシナプスに局在するカイニン酸受容体活性によるLTPの誘発は認められなかった。すなわち、ポストシナプス型LTPの誘発過程でプレシナプス型LTPの誘発を抑制される、新しいシナプスのルールが発見された。このメカニズムにはポストシナプスの代謝性グルタミン受容体活性による内因性カンナビノイドが誘導、生産され、ポストからプレへ作用し、プレシナプス型LTPの誘発を抑制する機構が発見された。元来恐怖学習を担う扁桃体において、グルタミン酸作動性シナプスのLTPは扁桃体そのものを興奮させるので内因性機構による興奮を抑える可能性がある。また別の見方からは内因性カンナビノイドの濃度を上げるか、その代謝を抑制する薬剤は不安障害への治療のターゲットになりうる。更に基礎医学ではシナプスでの新しい規則が発見され、神経科学的にも興味ある結論である。
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