研究概要 |
これまでの先行研究により,我々は炭素イオン線を照射することによりがん細胞の転移能,血管新生能を抑制できることを示した.本研究はそのメカニズムを,様々な体内微小環境との関連を含めて解明することを目的としている.本年度の研究で,炭素イオン線照射による転移浸潤の抑制効果は神経膠芽腫細胞においても認められた.さらにX線はRhoAを活性化したのに対し,炭素線は逆に不活性化した.RhoAの活性化阻害実験により浸潤抑制が認められたことから,炭素線はRhoシグナル不活性化を介して浸潤能を抑制することが示された.また昨年度に我々は炭素イオン線を照射することにより転移に関連するタンパクであるanillinがmRNAレベルで低下していることをRT-PCR法で示した.このanillinに対する放射線の影響についてより詳細に解析を行ったところ,タンパク発現量に大きな変化は見られなかったが,X線と比べて炭素イオン線では低線量の照射により核からのanillin拡散が起こることが蛍光免疫染色法により示された.次年度はanillinの局在変化と転移能との関連,並びにRhoAの上流・下流のシグナルを解析することにより,さらに系統的に転移抑制のメカニズムを解明する.次に体内微小環境と関連して,転移能を亢進させる低酸素培養を行った細胞について転移浸潤能の評価実験を行ったところ,X線と比較して炭素線は顕著な抑制効果を示した.また,被照射細胞の分泌する可溶性因子を介した照射野辺縁の細胞に対する影響(バイスタンダー効果)をX線を用いて評価したところ,浸潤能の亢進,DNA合成能の低下が認められた.これらの作用機序についても今後解析を進めていく.
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