本年度は種々の放射線照射後のAkt、RhoAの発現と活性化について解析した。さらに、腫瘍血管標的薬TZT-1027とX線の併用が血管新生能へ与える影響について評価した。 1.転移関連遺伝子・タンパク質の発現量:ヒト膵がん細胞株AsPC-1にX線を照射し、浸潤、遊走能、RhoAの活性化を解析した結果、X線罪射による浸潤、遊走能の抑制とRhoAの活性低下が示された。また、ヒト肺腺がん細胞株A549に種々の線量の炭素イオン線を照射し、時間経過的にAktの活性化を解析した結果、照射2時間後に活性が最大になる傾向にあった。 2.X線および炭素イオン線の血管新生亢進および抑制機序:血管内皮細胞株ECV304にX線、炭素イオン線を照射し、integrinβ1遺伝子(ITGB1)およびタンパク発現を解析した。その結果、X線および炭素イオン線照射後のタンパク質発現は線量依存的に亢進したが、ITGB1の発現に変化はなかった。以上よりintegrinβ1は放射線照射早期から発現が誘導されることが示唆された。 3.腫瘍血管標的TZT-1027と放射線併用療法ががん細胞の血管新生へ及ぼす影響:ECV304にTZT-1027を投与後、X線を照射し、浸潤、遊走、管腔形成能を評価した。その結果、TZT-1027単独、投与では増殖、浸潤、遊走に対し大きな影響は与えないが、X線の併用によってこれらは有意に抑制された。この実験により、低濃度のTZT-1027とX線照射の併用により正常血管内皮細胞への毒性を最小限に抑え、かつ、がんの血管新生を抑制できる可能性があることが示された。 以上より、種々の放射線照射によって起こるがんの転移、浸潤および血管新生亢進、抑制の分子メカニズム解明を進めた。
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