本研究では、種々の消化器癌患者手術標本、血清・血漿を用い、二次元電気泳動法、低分子ペプチド解析手法およびSEREX法を駆使して、癌の早期診断、再発予測、治療法の選択などに有用な新しい腫瘍マーカーとなるタンパク質・ペプチドおよび癌特異的抗体を同定することを目的とした。 1.2D-DIGEを用いた癌特異的に発現するタンパク質の解析肝臓癌組織から抽出したタンパク質を用いて二次元電気泳動法およびそれをさらに進化させた多重蛍光標識タンパク質発現ディファレンス解析法(2D-DIGE)を行い、新しい腫瘍マーカーとなりうるタンパク質を多数同定した。その中で、抗Clathrin Heavy ChainとFormiminotransferase Cyclodeaminase抗体による免疫染色が早期肝癌の診断に有用であることを見出した。さらに最近肝臓癌の腫瘍マーカーとして報告されたglypican-3の免疫染色と合わせることにより、早期肝癌の診断精度を向上させることを見出し、論文発表を行った(Hepatology 2008)。 2.独自のペプチド抽出法とHPLCを組み合わせた癌患者血清の発現プロテオーム解析血中には疾患マーカーとなる可能性のある低分子量ペプチドが多数存在するが、アルブミンやグロブリンなどの高分子量キャリアタンパク質が大部分を占めるために、これまでの手法ではそれらのタンパク質が邪魔になって量の少ないペプチドの検出が困難であった。そこで我々はそのメジャータンパク質を効率よく除去してペプチドを抽出する方法を確立し、火腸癌患者血清中に特異的に発現する大腸癌組織由来の微量なペプチドの単離・精製・同定に成功した。さらにその大腸がんマーカー候補ペプチドの安定同位体標識ペプチドを化学合成し、それを分析対象の血清に一定量添加することで、血清中の内在性のターゲットペプチドの定量化を可能にした。
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