従来から老化細胞は様々な炎症性サイトカインを分泌すること、および炎症性サイトカインが周辺の細胞に作用してさらに細胞老化を促進する可能性が指摘されている。また、大動脈瘤では周囲径の拡大に伴って壁ストレスが増加することが病態の進展に関与すると推定されている。しかし、大動脈瘤組織において殿細胞が壁ストレスを感知するか、また、ストレス感知の分子メカニズムは明らかではない。平成20年度は当初の仮説に基づき、オンコジーンRasの大動脈瘤病態への関与を検討するために、大動脈瘤を誘起したマウスにRas阻害薬(ファルネシル転移酵素阻害薬:FTI)を投与した。FTI投与は大動脈瘤径に明らかな効果を及ぼさず、このモデルにおけるRasの関与は否定的であった。さらに、ヒト大動脈瘤手術標本の遺伝子発現解析から細胞老化の関与を検討した。瘤径の拡大に伴い、従来から病態への関与が報告されているタンパク分解酵素(MMPs)、炎症性サイトカイン関連分子(TNFファミリー、ALOX5)の発現亢進とともに、老化関連因子(INK4)の発現亢進と細胞周期因子(サイクリンD)の抑制を認め、ヒト大動脈瘤病態における細胞老化の関与が示唆された。アンジオテンシンIIは、血管平滑筋細胞の老化を促進することが報告されている一方、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)は、臨床的に大動脈瘤抑制作用が示唆されている。ヒト大動脈瘤組織培養にACE-Iを添加し、サイトカインの網羅的解析を行なったところ、抗老化作用が報告されている肝細胞増殖因子(HGF)の増加を認め、ACE-Iの作用機序への関与が推定された。
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