DNA塩基配列そのものではなくその修飾要素として細胞分裂の際に娘細胞に維持・伝達される情報をエピジェネティクスと呼ぶが、DNAメチル化は最も重要なエピジェネティック変化の一つであり、DNAメチル化異常を詳細にゲノム上にマッピングし癌のエピゲノム異常を解明することは、癌の複雑な遺伝子制御異常を明らかにするために必須である。オリゴをプローブに用いたゲノムタイリングアレイによる我々のDIP-chip技術を用い、消化器癌細胞株のDNAメチル化を詳細にマッピングする。平成20年度までに、大腸癌メチル化マーカーを樹立し、臨床大腸癌121症例の定量的メチル化解析を終了していたが、平成21年度はさらに28症例の解析を追加。階層的クラスター解析により、大腸癌はDNAメチル化により3つのエピジェノタイプに分類されることが判明した。簡便に高メチル化群、中メチル化群、地メチル化群に分類するマーカーを樹立した。高メチル化群はBRAF遺伝子突然変異と相関し、中メチル化群はKRAS遺伝子突然変異と相関した。KRAS変異(+)中メチル化群の大腸癌は有意に予後が悪かった。これらの結果は、大腸癌は発癌体系が異なる3つの群が存在することを示唆し、また同定したメチル化マーカーは予後マーカーとして有用と思われる(Clin Cancer Res 2010)。肝癌は平成20年度までにHBV(+)肝癌、HCV(+)肝癌にそれぞれ特異的なメチル化候補部位を抽出し、肝癌症例60例について定量的メチル化解析を終えたが、平成21年度はメチル化解析症例を追加し、発現解析を加え、肝癌細胞株5個についてもメチル化定量解析、脱メチル化処理による再発現解析を行った。最終的に、年齢に依存せずHCV(+)肝癌特異的にメチル化される15個の遺伝子を同定し、そのいくつかは無再発生存との有意な相関を認めた。
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