研究概要 |
上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子の変異とEGFRのチロシンキナーゼ阻害剤であるイレッサ(グフェニチプ)の効果が相関するという報告がされて以来,EGFR遺伝子変異の研究は直接的に実地臨床と結びつき,肺癌患者に対するデーラーメード治療の先駆けとなっている。その後の研究から肺腺癌の約50-60%が,発生と維持にEGFRかK-rasの2つのどちらかの遺伝子変異が不可欠であることが判明した。また,以前から肺癌では高率にp53遺伝子の変異が認められ,hot spotとしてcodon157,158,248,249,273が存在することが知られている。したがって,これらのEGFR,K-ras,p53の遺伝子変異を迅速、正確に解析することができれば60%以上の肺腺癌の診断が可能になり,同時に個別治療の指標としての遺伝子情報を手に入れることができる。そこで我々は理化学研究所で開発された新規遺伝子増幅法(SMAP法)を利用してEGFR,K-ras,p5の遺伝変異を高速、高度感に検索できるキットを開発している。H19年度にはEGFRとK-rasの遺伝子変異を解析するキットを完成させた。EGFR,K-rasともに約1%の変異を約30-40分で解析可能で時間、コストともに優れていることを確認した。現在,新たにイレッサの耐性に関与するEGFRのexon20のT790Mとp53のhot spoに対する変異検出キットを開発中である。 SMAP法の臨床応用としては,145症例の肺腺癌手術検体においてEGFRとK-rsasの変異解析を行いEGFR,K-rasともに現在までに報告されている遺伝子変異率を上回る結果(EGFR変異率:約50%,K-ras変異率:約18%)を出した。また,手術中に採取した臨床検体を約3-5分でSMAP法の鋳型に精製できるシステムを開発した。さらには,EGFRとK-ras遺伝子の検索キットを実際に臨床に利用し。SMAP法を利用した遺伝子変異検索キットの実地臨床における精度,臨床的有用性,EGFR変異解析結果とイレッサによる臨床効果との相関を検討している。
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