【目的】脳虚血において短時間の虚血負荷により、引き続く致死的虚血に対して抵抗性を獲得することが知られている。我々はこの虚血耐性現象における細胞内情報伝達機構を明らかにするため、ラット海馬の遅発性神経細胞死において神経細胞保護と神経細胞死に関与する蛋白質の制御機構を検討した。【方法】ラット一過性前脳虚血モデル(Smithモデル)を用いて、5分間の頸動脈遮断による虚血負荷(致死的虚血群)と、preconditioningとして48時間前に3分間の虚血負荷を加えた。三日目以降に生じる海馬CA1の遅発性神経細胞死の状態を、灌流固定後、パラフィン包埋し、クレシルバイオレット染色を行った組織でviableな細胞数を計測し比較した。さらに、虚血前コントロール、致死的虚血群、虚血耐性群の三群で、虚血負荷後に断頭し顕微鏡下に摘出した海馬CA1を対象として、細胞生存シグナルの中心的役割をなすPI3K/Aktのリン酸化の動態についてAkt及びpAkt抗体を用いてWestern blotを行い半定量的に比較検討した。【結果】5分間の虚血負荷後、海馬CA1の神経細胞は80%以上が遅発性神経細胞死に至るが、虚血耐性群では90%の神経細胞が保護され、虚血耐性の誘導により神経細胞の保護効果が確認された。Western blotによる検討では、虚血耐性群において虚血後4時間の時点でリン酸化Aktの増加を認め、Aktの活性化が神経細胞の保護に関与している可能性が示唆された。現在、各群で虚血後の経時的なポイントを増やしsampleを作成し、詳細な動態を検討中である。さらに細胞死の主要シグナル経路であるJNKや、JNKの上流でアポトーシスに関与しているASK1などの蛋白質についてもwestern blotを行い、細胞死/生存の調節機構につきさらに解明をすすめる予定である。
|