研究概要 |
本研究では、神経線維腫症1型NF1及び2型NF2の病態発症メカニズム解明と治療ターゲットの開発を目的として、それぞれの原因遺伝子産物;NF1蛋白(Neurofibromin),及びNF2蛋白(Merlin)の細胞内機能に関連する特異的なシグナル分子群を、詳細に明らかにすることを目標にして研究をすすめている。本年度は昨年度に引き続き、プロテオミクス(iTRAQ法)によるneurofibromin、およびMerlinの神経系細胞内結合蛋白質の解析を行い、neurofibrominにおいては58種類の、Merlinにおいては68種類の、ニューロン分化制御因子群、リン酸化酵素制御因子群、細胞骨格系制御等に関わる分子群を同定した。特にニューロンのアクソン形成に関わるCRMP2とtubulinの neurofibrominとの相互作用に注目し、CRMP2分子の非リン酸化フォームのみに特異的に3者が結合し、リン酸化によってこれらの結合が制御されていること、又、NGF刺激PC12細胞のneurite、およびラット胎児海馬ニューロンのアクソンにおいてこれらの分子の局在が一致することを見出した。2D-DIGE法とproQ Diamondを用いたphospho-differential解析にてsiRNAによるNF1ノックダウン細胞とコントロール細胞の発現プロファイルの比較と、各種キナーゼ阻害剤による生化学的・細胞生物学的比較解析をしたところ、特にRho Kinase(Ser555),CDK(S522),GSK-3b(Ser518,Thr514,Thr509)によるCRMP2の特異的リン酸化がNF1ノックダウン細胞内にて亢進していることが判明し、neurofibrominは神経系細胞内において、RAS-Rho-RhoK-CRMP2およびRAS-MAPK-CDK5-GSK3-b-CRMP2シグナルの制御を行うことによってCRMP2のリン酸化を相互制御し、アクソンの形成と伸展に関わることが判明した。これらの結果から、これらの責任キナーゼ阻害薬がNFにおいて障害された神経系細胞の機能改善治療薬として有用である可能性を提唱した。
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