脳神経疾患に対する新規治療法の開発に向け、AAVベクターを応用した細胞遺伝子療法の安全性と有効性を検証するため、ベクター作製法の開発や遺伝子導入実験を行った。 新規のウイルス増幅用細胞としてアデノウイルス初期遺伝子E1を恒常的に発現する293細胞を開発し、高い作製効率が得られることを確認した。また、培養上清からのベクターの回収条件を検討し、精製過程でヘパリンカラムを用いて夾雑物を取り除くことで、イオン交換膜による精製効率が改善された。 間葉系幹細胞にベクタープラスミドおよびヘルパープラスミドを導入し、ベクターの複製に有効な遺伝子導入条件を検討した。各種遺伝子導入法により間葉系幹細胞にベクターのコンポーネントを導入し、細胞破砕後のウイルス力価をQ-PCR法にて検証したところ、リン酸カルシウム法に比べて、ヌクレオフェクション法の方が高い効率でウイルスが産生された。また、自殺遺伝子HSV-tkを恒常的に発現させる間葉系幹細胞を樹立し、ベクターのコンポーネントを導入した。GCV投与によって培養上清中にウイルスが放出されることを確認した。 AAVベクターを応用した治療実験としては、タンパク質補充療法の可能性を検証した。脳卒中に対する炎症制御療法として、抗炎症性サイトカインを用いた高血圧性臓器障害の予防効果を検証した。脳卒中易発症性高血圧自然発症ラットに1型AAVベクターの筋肉内投与によるIL-10補充療法を行い、高血圧、腎機能障害、脳卒中発作の予防効果を証明した。また、骨格筋における効率的な発現を実現するため、イヌ骨格筋にAAVベクターを用いて遺伝子導入実験を行った結果、8型AAVベクターは導入効率や炎症の点で圧倒的に有利であった。さらに、9型AAVベクターをマウスに経静脈的に全身投与したところ、心筋での遺伝子発現が1年半以上持続し、長期タンパク質補充療法の実現可能性が示唆された。
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