研究概要 |
本研究室ではこれまでにSYT-SSXが滑膜肉腫の原因遺伝子であることを世界で初めて証明し、SYT-SSXがクロマチンリモデリング因子hBRMと結合することが癌化に必須であることを発見した(Nagai, et al.PNAS,2001)。また、hBRMとの結合を阻害するペプチドが細胞レベルでは治療薬として作用する可能性も見出した。さらに、シグナル伝達アダプター分子Crkが滑膜肉腫の増殖、運動、浸潤能に必須であり、Crkを抑制すると細胞は死滅することなしに、癌化能のみが選択的に抑制されることが明らかとなった(Watanabe, et al.Mol.Cancer Res.2006)。本研究計画ではこれらの知見にもとづいて、詳細な滑膜肉腫の癌化機構を解明するために、SYTの生物学的な役割に着目して研究を行い、SYTノックアウトマウスは耐性致死であることから、SYTは個体発生に必須の分子であることを明らかにした(Kimura, et al.Lab.Invest.Mar 30.2009)。またSYTは胎盤の血管形成に重要な分子であることも明らかとなった。さらに、創薬を目指した側面から滑膜肉腫の癌化シグナルを解析し、p38MAPキナーゼが重要な役割を果たすことが明らかとなった(Watanabe, et al.Mol.Cancer Res.Sep 8.2009)。現在、SYT-SSXのトランスジェニック(Tg)マウスをp53欠失マウスと交配することによって肉腫発生の結果を得ているが、p38阻害薬が腫瘍抑制に効果があるか否かを検討し臨床応用への可能性を探っていきたい。またSYT-SSX Tgマウスをp16INK4aノックアウトマウスとかけあわせることで腫瘍形成の効率化をはかり、治療薬の評価系を確立することを目指していきたい。現在滑膜肉腫は多分化能を有する腫瘍と考えられてきており腫瘍幹細胞の分離とそれらを標的とした治療法の開発も試みたい。
|