研究概要 |
癌の骨転移、あるいは原発性骨腫瘍による骨破壊は、激しい疼痛と運動制限をもたらし患者のQuality of life(QOL)を著しく低下させるため、その病態解明と治療法の開発は喫緊の課題である。本研究では、腫瘍性骨破壊のメカニズム、特に血管新生と破骨細胞の分化/骨吸収の相互作用に注目し、新たな治療法の確立を目指す。 固形悪性腫瘍の増殖、浸潤、転移を考える上で、腫瘍組織周囲の間質系細胞、特にマクロファージの重要性が注目されている。これらは腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage;TAM)と呼ばれている。乳癌組織ではTAMの豊富な腫瘍では微小血管密度が高いことが明らかにされ、TAMが血管新生因子を分泌する主要な細胞の一つであると考えられている。乳癌は腫瘍性骨破壊を来す代表的な疾患であること、TAMと破骨細胞前駆細胞や破骨細胞が近縁の細胞であり細胞間に相互作用があると予想されること等より、本年度はTAMの血管新生、破骨細胞の分化/骨吸収への関与に注目して検討をすすめた。 まず、ヌードマウスに作製した腫瘍のXenograftより、MACSビーズを用いてTAMを効率的に精製する手法を確立した。さらに、1)TAMは正常の単球に比してVEGF,bFGF,IL-1など血管新生、破骨細胞前駆細胞遊走、分化に関与する因子を多量に発現していること、2)TAMそのものが破骨細胞へ分化すること、3)TAMの培養上清が破骨細胞分化を促進することなどを見いだした。 これらの新しい知見は、TAMの腫瘍局所への集積を制御することで、腫瘍性骨破壊における血管新生と破骨細胞の分化/骨吸収を同時に抑制する可能性があることを示唆しており、新しい治療戦略として有望である。本年度は引き続き、TAMと血管新生、破骨細胞の分化/骨吸収の関連をin vitroで詳細に検討すると共に、研究実施計画書において提示したヒト乳癌細胞株による骨破壊モデルを用いてin vivoでの解析を予定する。
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