研究概要 |
骨形成を「骨リモデリング」の最終段階と捉え、骨リモデリングを「開始期」「(骨吸収から骨形成への)移行期」「終止期」の3期に分けることを提唱し、破骨細胞と骨芽細胞系譜の細胞間相互作用について論じた(Matsuo and Irie, 2008, Matsuo, 2009印刷中)。特に開始期においては、破骨細胞分化が、骨芽細胞との相互作用により細胞内カルシウム濃度の周期的変動に非依存的に起こることを示した(Kuroda et al, 2008)。さらに、ephrinA2-EphA2を介する破骨細胞と骨芽細胞の間の相互作用を解析したところ、破骨細胞分化の亢進と骨芽細胞の分化抑制が同時に起こることが明らかになった(Irie et al, 2009)。一方、Fralトランスジェニック(Tg)マウスにおいて「骨折後の骨修復のための骨形成が起動しない分子機構」を明らかにするために、脛骨骨折の作製実験を行なったところ、予想に反して骨形成に先立つ軟骨分化が障害されており、未分化間葉系細胞の集団が骨形成を邪魔しているらしいことが明らかになった。軟骨分化が起こらない理由の一端は、骨折部位周辺の炎症の低下によることが、サイトカインの産生低下、Cox2遺伝子の発現低下などから推察された。そこで、徐放性のPGE2ペレットの投与実験を行ったところ、軟骨分化が一部回復し、骨折治癒の遅延が改善した(Yamaguchi et al,改訂版を投稿中)。Fral Tgマウスにおいて、骨形成の終了を司ると考えられているSOST (sclerostin)関連の遺伝子発現を解析したが、野生型と比べて有意な差は見出されなかった。以上から、Fral Tgマウスでは、骨折治癒過程の内軟骨性骨化における骨形成の起動には、炎症に基づく軟骨分化が必要であることが示唆された。
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