研究概要 |
雄性Balb-Cマウス(8-12週,体重25-35g)の盲腸結紮穿孔により惹起した敗血症は,敗血症のさまざまな臓器の時系列でnuclear Factor-・Bとactivator protein-1の転写活性を高めることが,ゲル・シフト法で確認された。敗血症作成10時間後には,肺,心筋,肝臓,腎臓,脾臓,大動脈などのさまざまな臓器における炎症性物質の産生が高まり,その一方で,デコイ核酸やsiRNAのリポゾーム法による導入効率が上昇することがCy3をラベルしたもので確認された。 本研究に用いた盲腸結紮穿孔モデルは約2日で死亡するように設定されたが,遺伝子核酸試薬として用いたAP-1デコイ核酸は敗血症マウスの生存率を80%まで有意に高めた。この生存率改善効果は,アポトーシス関連分子であるDeath受容体の転写調節と細胞膜移動の抑制にあることが本研究で明らかとされた。本研究では,Death受容体ファミリーであるDR4, DR5, Fas, TNF受容体1の細胞膜発現が敗血症病態のさまざまな臓器で上昇し,そのアダプタータンパクFas-associated death domainも転写段階で上昇し,caspase-8とcaspase-3の活性化を介して,アポトーシスを進行させた。結果として,AP-1デコイ核酸やFADD siRNAは,敗血症で進行するアポトーシスを抑制し,敗血症マウスの生存率を改善させた。 集中治療室における長期化した敗血症管理では,多臓器不全が不可逆なものに進展し,治療に難じる傾向がある。本研究では,敗血症病態における主要臓器や血管内皮細胞のアポトーシスの関与を明確とし,この新たな創薬基盤としてAP-1デコイ核酸やFADD siRNAを見出した。以上は,敗血症治療の今後に新たな方向性を与える可能性があり,本研究課題における重要な発見と考えている。
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