研究概要 |
盲腸結紮穿孔を施した敗血症マウス(CLPマウス)において,転写因子nuclear factor-κB(NF-κB).activator protein-1(AP-1)およびcyclic AMP response element(CRE)の転写活性が時系列で様々な臓器で上昇することをゲルシフト法で確認した。CLPマウスのNF-κB活性は,肺,心房筋,脾臓,大動脈で約10時間後と15時間後の2相性にピークを示し,AP-1活性は15~24時間後をピークとし,CREは3時間レベルの短時間で活性のピークを示した。このような転写因子活性に対してデコイ核酸を遺伝子導入し,転写因子活性を抑制した結果,NF-κBはケモカインや接着分子などの炎症性分子を,AP-1は外因性アポトーシス誘導シグナルの転写亢進に関与することを見いだした。 Crit Care Med 2009 ; 37 : 2791-27991では,敗血症に合併する耐糖能異常にNF-κB活性が関与し,NF-κBデコイ核酸の筋肉内投与により,インスリン抵抗性が改善することを報告した。J Pharmacol Exp Ther 2010 ; 109 ; 1635-1643では,脾臓のNF-κB活性の基礎値は他の臓器より高いことを示し,このNF-κB活性によりヒスタミンH4受容体(HR-4)の転写が多臓器より高く保たれ,一方でHR-4によりNF-κB活性の上限が規定されることをsiRNAを用いて示した。Am J Phvsiol Heart Circ Phvsiol 2010 ; 298 ; 92-101では,敗血症病態の大動脈においてDeath受容体の転写が高まり,アポドーシスが進行することを明らかとした。このようなDeath受容体の細胞膜発現の亢進には敗血症病態で活性化するAP-1活性が関与することを明らかとし,2009年米国集中治療医学会で報告した。 敗血症病態では様々な分子が病態進行に寄与するが,本研究はその根底として,転写因子NF-κBおよびAP-1が強く関与することを示したものである。
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