研究概要 |
本年度は、まずヒト網膜色素上皮(RPE)を分化誘導条件下で培養し,分化形質の発現が最大になった段階でmRNA抽出,および培養上清を採取し,補体蛋白であるC3,C5,そして代替経路の制御因子であるB因子,H因子,I因子に対して半定量的およびリアルタイムPCR,Western blottingを施行し,RPEにおけるこれら因子の恒常的な発現を調べた。その結果、ヒトRPEでは恒常的にC3,C5,H因子、B因子、I因子が発現していることか明らかになった。つぎにAmyloid β(Aβ)負荷により,上記の補体関連因子の発現がどのように変化するかを調べた。具体的には,ヒトRPE細胞にAβ(50μM)を負荷して、mRNAと蛋白を抽出し,Aβ蓄積に伴う補体蛋白とその制御因子の発現変化リアルタイムPCR,Western blotting, ELISA法を用いて解析した。その結果、Aβ負荷により、mRNAレベルではC3,C5,H因子、I因子の発現は殆ど変化しなかったが、RPE培養上清中のH因子、I因子の産生量は低下していた。つぎに、ヒトRPE細胞において,内因性のC3b,および外部から過剰に添加したリコンビナントC3bか培養系で分解されて精製された分解産物であるiC3bをELISA法にて測定し,Aβ負荷によりRPEにおけるiC3bの産生が阻害されるか検討したところ、Aβ負荷により、培養上清中のiC3b量は減少していた。以上から、網膜においてRPEは恒常的に補体蛋白とその制御因子を産生し、網膜下の補体活性化を制御しているが、Aβ負荷によりC3bの分解が阻害され無秩序な補体活性化を惹起する可能性が示唆された。
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