研究概要 |
筋を支配する運動神経を切断した後,知覚神経で交叉支配することにより,筋の萎縮をある程度予防できる(sensory protection)ことが明らかとなってきた.本研究は,ラット薄筋わfree flapとして自家移植するモデルを用いて,sensory protectionの機序を解明することを目的としており,平成19年度は主に組織形態学的検討を行った. Wistar系のアダルトラットを対象として,深麻酔下に実験を行った.薄筋を完全に遊離してから栄養血管を再吻合する自家移植モデルを作製した後,以下の4群に分けた.それぞれ片側のみの操作とし,剥離手術操作のみを行う対側をcontrol: C群とした.1)薄筋の支配神経を切断,結紮する(dennervation: DN群),2)いったん切断した支配神経と再吻合する(rennervation: RN群),3)支配神経の遠位断端を坐骨神経と端側縫合する(motor innervation: MI群),4)支配神経の遠位断端を大伏在神経と端々縫合する(sensory protection: SP群).3か月の生存期間後に再開創して,両側薄筋の電気生理学的検査を施行し,さらに筋体を採取した.筋体の一部をHE染色組織標本として観察に供し,残る筋体の乾燥重量を測定した. 乾燥重量の比較および電気生理学的検討,組織学的検討により,RN群,MI群,SP群において筋体が温存されていることが明らかとなり,知覚神経による交叉支配,あるいは端側神経縫合を介した他の運動神経による交叉支配によって,脱神経後の筋体量を維持できる可能性が示唆された.更なる検討および神経トレーサー法等による再構築神経回路の解析が必要であるが,臨床上の大きな問題である自家遊離移植後の筋体萎縮を手術手技の単純な工夫によって予防できる可能性がある.
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