研究概要 |
筋を支配する運動神経を切断した後、知覚神経で交叉支配することにより、筋の萎縮をある程度予防できる(sensory protection)ことが明らかとなってきた。本研究は、ラット簿筋をfree flapとして自家移植するモデルを用いて、sensory protectionの機序を解明することを目的としており、平成20年度は主に組織形態学的検討を行った。 Wistar系のアダルトラットを対象として、深麻酔下に実験を行った。両側の半膜様筋に侵入する坐骨神経の枝(脛骨神経)を同定したのち、左側を剥離手術操作のみを行うcontrolとした。右側は顕微鏡下に以下の神経の操作を行った。 1) 切断,結紮する(dennervation: DN群), 2) いったん切断した支配神経と再吻合する(rennervation: RN群), 3) 支配神経の遠位断端を坐骨神経と端側縫合する(motor innervation: MI群), 4) 支配神経の遠位断端を伏在神経と端々縫合する(sensory protection: SP群). 3か月の生存期間後に再開創して,両側半膜様筋の筋体を採取した.筋体の一部をHE染色組織標本として観察に供し、残る筋体の乾燥重量を測定した。乾燥重量の比較の結果、RN群>MI群>SP群≧DN群の順に筋体が温存されていた。またHE染色の結果からは、筋節の大きさがRN群で優位に大きく、SP群では筋の退縮が認められたがDN群に比してその程度は軽度であった。知覚神経あるいは端側神経縫合を介した他の運動神経による交叉支配により、脱神経後の筋体量を維持できることが示された。自家遊離移植後の筋体萎縮予防は臨床上、大きな課題となるが、手術手技の単純な工夫によって予防できる可能性が強く示唆された。
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