研究概要 |
【目的】歯髄組織幹細胞の局在と歯の損傷後の分化能を明らかにするために、胎生期に歯髄組織幹細胞をBrdUによりラベルし、歯髄におけるlabel retaining cells (LRCs)の局在と歯の切削および再植後の反応を免疫細胞化学的に検索した. 【方法】妊娠Wistar系ラットに2〜5日間BrdUを腹腔内投与し、生後〜100日齢まで経時的にアルデヒド系固定液で灌流固定し、EDTA脱灰後、パラフィン切片を作製し、抗HSP-25、抗ネスチン、および抗BrdU抗体を用いた免疫染色を行った.さらに生後4〜14週齢の右側上顎第一臼歯にそれぞれ再植、窩洞形成を行った.また、4週齢ラットの臼歯歯髄を摘出し、FACSによりSP細胞の存在を検索した. 【結果および考察】生後4〜14週では主に歯髄中央部血管周囲に強くラベルされた組織幹細胞と思われるLRCsが局在した.象牙芽細胞や象牙芽細胞下層にも果粒状のBrdU陽性反応が見られ、一時的増幅細胞が果粒状にラベルされたと考えられた.4週齢歯髄には1%未満のHoeschist33342色素を排除する細胞が存在し、Verapamil添加により色素排除性を失うことからSP細胞であると考えられた.SP細胞には強くラベルされたLRCsと果粒状のLRCsが存在するのに対し、non-SP細胞には果粒状のLRCsは存在するものの、強くラベルされたLRCsは存在しなかった。再植後には再生象牙芽細胞層に強くラベルされたLRCsが観察されるのに対し,窩洞形成後には果粒状にラベルされたLRCsが観察された.広範に損傷を受ける歯の再植後にはLRCsが直接象牙芽細胞に分化するのに対し,窩洞形成後には一時的増幅細胞が象牙芽細胞に分化することが明らかになり,歯の損傷の程度によって歯髄組織幹細胞の役割が異なることが示唆された.また,歯の再植後には歯髄内で象牙質形成と骨組織形成が惹起されるが,再生象牙芽細胞にLRCsが観察されるのに対し,骨芽細胞にはLRCsは観察されなかった.歯の再植後にはLRCsが象牙芽細胞に分化するのに対し,LRCs以外の他の細胞群が骨芽細胞に分化すると考られた.
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