研究概要 |
A群レンサ球菌はヒトの咽頭炎や扁桃炎の起因菌として知られるが,近年,劇症型A群レンサ球菌感染症(STSS)を引き起こすことで注目を集めている.同感染症は,30%を超える死亡率が報告されており,その発症機構の解明と病因論に基づいた有効な治療法の確立が望まれている.組織内に侵入したA群レンサ球菌が全て重篤な感染症を引き起こすわけではなく,STSS等の発症には更なる病原因子の関連が考えられている.STSS患者から分離された菌株は,抗オプソニン化作用等が高いことが示唆され,劇症型の菌株は宿主免疫機構から逃れる機構を備えている可能性が考えられる.また,STSS患者の感染部位では,好中球の浸潤が低下することが報告されている.そこで,申請研究では,A群レンサ球菌が初期免疫システムから逃れる機構-特に補体免疫および好中球による貧食からの回避-に関与する新規病原因子の検索を行った. まず,感染初期に免疫系で好中球を遊走させる等の重要な役割を果たす補体成分C5aを,A群レンサ球菌が分解する機構を明らかにした.ついで,遊走して来た好中球による効率的な感染細菌の排除において,中心的な役割を担う補体成分C3bを分解するA群レンサ球菌の分子を同定した.併せて,組織内に侵入した菌体の補体免疫回避と感染拡大に及ぼす影響についてマウス感染実験を用いてin vitroのレベルで明らかにした.また,C3b分解分子を阻害する特異抗体を調整し,そのSTSS抑制効果についても検討を加えた.
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