研究概要 |
A群レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)は,劇症型A群レンサ球菌感染症(STSS)等の侵襲性疾患を引き起こすことが知られている.STSS患者の感染組織では,好中球等の多形核白血球の浸潤ならびに貪食能が極度に低下し,A群レンサ球菌の活発な増殖が認められる.また,自然免疫系において主要な役割を演じる宿主分子として,補体C3bが知られている.本年度は,A群レンサ球菌が分泌するシステインプロテアーゼSpeBおよび菌体結合型セリンプロテアーゼであるScpAに着目し,向菌がC3bを不活化する機序を検索し,自然免疫を回避する機構の解明を試みることにした.STSS患者由来のS. pyogenes SSI-9株のspeB遺伝子欠失株(TR-11株)ならびに組換えSpeB (rSpeB)を作製した.また同様にrScpAおよびscpA遺伝子欠失株(TR-10株)も構築した.C3b抗体を用いたウェスタンブロット分析を行ったところ,STSS患者由来血清においてのみ,C3bの消失が認められた.次に,生体間分子相互作用解析およびウェスタンブロットの結果から,rSpeBおよびSSI-9株,TR-10株はC3bを分解することが明らかとなった.一方,rScpAやTR-11株はC3b分解活性を示さなかった.ヒト末梢血に対しては,SSI-9株がTR-11株に比較して有意に高い抗貪食能を示した.また,マウス感染実験を行ったところ,SSI-9株感染部位では,TR-11株と比較して,好中球浸潤の低下と末梢血内における菌の長期生存が認められた.以上の結果から,SpeBは感染初期において,C3bを分解しA群レンサ球菌菌体に対するオプソニン化を阻害することで免疫回避を行い,その後の組織内増殖を可能にしていることが示唆された.
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