研究概要 |
A群レンサ球菌(Group A Streptococcus: GAS)は初発感染として咽頭炎や扁桃炎,さらに続発性疾患として猩紅熱やリウマチ熱,糸球体腎炎を引き起こす病原菌である.A群レンサ球菌は,上皮細胞に侵入した後,エンドソームによる分解を回避し細胞質へと移行する.一部は,新たな自然免疫として機能することが示されたオートファジーにより除去される.このように細胞内の宿主の防御系から逃避することが,A群レンサ球菌の多彩な臨床像を示す1つの理由となるのではないかと考えられる.そこで,本研究ではA群レンサ球菌が,宿主の防御機構を回避し,細胞内で生存する機構を明らかにすることを目的として,感染時におけるA群レンサ球菌の全ゲノムレベルでの発現解析を経時的に行った.その結果,真核細胞内に存在しているA群レンサ球菌のRNAを抽出・増幅した後に,マイクロアレイ解析を行った結果と定量的PCRとの間に相関があるプロトコールを確立することが出来た.次に,A群レンサ球菌の発現変化に着目して,発現解析を行った.感染前のA群レンサ球菌と比較して,感染後1時間目においてその発現を1.5倍以上変化させていた遺伝子数は全ORFの43%(1861個のうちの約800個)に及んでおり,オートファジーによる作用を受けていると考えられる3,4時間目においても10%程度の遺伝子が発現を変化させていた.興味深いことに,細胞のオートファジーの有無が,同じ感染時間のA群レンサ球菌の遺伝子発現パターンの変化に影響を与えており,全ORFの8%の遺伝子発現に差が生じていることがわかった.また,オートファジー欠損型細胞での比較により,オートファジーの存在下でのみ発現が上昇する遺伝子が26個見られた.このうちの7個の遺伝子(一本鎖結合タンパク質,インテグラーゼ,プラスミド安定化タンパク質,リボソームタンパク質S21,透過酵素及び未知のタンパク質)は,オートファジー欠損型の宿主に感染した場合は発現が1.5倍以上減少していたため,オートファジーに対応して発現を増加させている可能性が考えられた.
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