研究概要 |
本年度は,乾燥および加熱が象牙質の静的破壊抵抗性に及ぼす影響を多面的に評価した.まず,新鮮抜去ヒト大臼歯の歯冠部より,象牙細管走行方向を負荷表面に平行あるいは垂直に走行するよう規定した象牙質棒状試料を採取した.試料は,乾燥および50-170℃の加熱条件で保管し,(1)片持ち梁曲げ試験,(2)微小引張試験の後,(3)走査電子顕微鏡による破面観察に供した.さらに,(4)破壊エネルギー,(5)弾性係数,および(6)破壊靭性値を算出して,乾燥および加熱が象牙質の静的破壊抵抗に及ぼす影響を多面的に評価した. その結果,象牙細管が負荷表面に平行に走行する試料を110-140℃に加熱した場合において,曲げ強さ,微小引張強さ,破壊エネルギー,および破壊靭性値が有意に増加することが明らかとなった.また,走査電子顕微鏡による破面観察より,加熱試料で表面が粗造となっていたことから,破壊に多くのエネルギーを必要としたことを示していた.一方.弾性係数は加熱によって変化がなかったことより,象牙質が加熱によって従来の弾性を失うことなく強化されることがわかった. 一方.象牙細管が負荷表面に垂直に走行する試料では,加熱によって強度が増加するものの,平行な試料ほど顕著な変化ではなかった.結果として,加熱によって平行試料が顕著に強化されることにより,従来の象牙質の特性である象牙細管の走行方向に依存した機械的強度の異方性が,明確でなくなることが示された. さらに,乾燥のみでは静的破壊抵抗性に明らかな変化が起らないことも明らかとなった.
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