研究概要 |
発音はコミュニケーションを図るために必要不可欠な口腔機能だが,診療時の簡便な客観的評価は困難なため,音声認識プログラム(東芝DME社製)の適用による,チェアサイドで補綴処置の効果を判定可能な評価システムを開発した.本システムでは2文字の符号(音声セグメントラベル)に変換して,被験音節の適正ラベルの出現率を分析,評価する.被験語には有床義歯装着時に影響されやすい音節を2番目に含むイ[シ]カワ,オ[キ]ナワ,イ[チ]ロー,エ[ヒ]メケン,オ[リ]ガミ,コ[ニ]シキ等を選択した. 本システムを用いて被験者数を増やし,健常歯列者46名(男性17名,女性29名)を分析し,義歯装着者6~7名のデータと比較すると,健常歯列者の適正ラベル出現率は[シ]92%,[キ]79%となったが,義歯装着者では[シ]76%,[キ]30%となり,健常歯列者が有意に高い認識率を示した.また[チ]では健常歯列者56%,義歯装着者48%となり有意差は認められなかった. さらに健常歯列者10名に対して実験用上顎大連結子として,前・中・後・前後パラタルバー,馬蹄形・斜走行バーの6種類を装着し,[シ][キ][チ][ヒ][リ][ニ]の発音について分析した.その結果,中パラタルバーは全被験音で未装着と装着時とで有意差はなく,発音に影響の少ない装置と分かった.また前・前後パラタルバー,馬蹄形バーでは[シ][チ][ヒ][リ]で装着時に有意に低い認識率を示し,後・前後パラタルバーでは[キ]で装着時に有意に低い認識率を示した. 以上より[チ]のような健常歯列者でも認識率の低い音節においても,補綴装置の違いを識別できたことから,本システムにて各音節における健常歯列者のデータを基準値に設定し,義歯装着者の発語機能を評価することの有用性が示唆された.
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